主な対象疾患
消化器の悪性腫瘍(食道癌、胃癌、大腸癌など)、急性腹症(突然の腹痛)など。他科と協力し治療にあたっています。
概要
当院は日本外科学会の認定施設です。消化器外科では消化器領域(食道、胃、小腸、大腸、肛門、肝臓、胆道、膵臓)において良性疾患、悪性疾患を問わず、手術や内視鏡を中心に診療しています。消化器外科の対象疾患は、病気の種類や治療方法が多岐にわたります。各種診療ガイドラインに準拠した治療方法を基本として、患者さんに納得していただけるまで充分に説明を行い、患者さんの状態に応じた最適な治療を心がけています。
4人の経験豊富なスタッフ(外科専門医・指導医、消化器外科専門医・指導医、内視鏡外科技術認定医、食道科認定医、胃腸科専門医・指導医、がん治療認定医、消化器がん外科治療認定医)が、診療にあたります。低侵襲な腹腔鏡下手術を積極的に導入し、がんの進行度によっては拡大開腹手術に至るまで幅広く対応しております。
また外科的手術のみならず内視鏡的治療、化学療法、緩和ケア等の集学的治療が可能であり、基幹病院(大病院)と遜色のない質の高い治療が可能です。地域密着な民間病院だからこそ、患者さんとの距離が近く、小回りも利き、診断から治療開始までの期間が短いのも当院の強みであります。小規模ながら消化器内科、循環器内科、呼吸器内科、腎臓内科(透析)、糖尿病内科、脳神経外科、泌尿器科等も充実しており、高齢者や併存疾患を多くおもちの患者さんに対しても十分に対応できる体制にあります。麻酔科専門医による安心した麻酔が受けられます。HCU(High Care Unit:高度治療室)を有し、より専門的な治療も可能です。
セカンドオピニオンによる対応も可能ですのでいつでもご相談下さい。他院で緩和治療を勧められたものの治療方針について納得できないような患者さんについても、丁寧に対応させていただきます。
診療時間
都合により診察医が変更になる場合がございますが、ご了承下さい。
午前診 (9時~12時)
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | |
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6 診 |
大草 | 馬殿徹 | 平 | 石川 | 馬殿徹 |
午後診 (13時~17時)
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | |
---|---|---|---|---|---|---|
6 診 |
大草 | 石川 |
*令和3年1月から午後の診察は完全予約制となりました
当院の強み「腹腔鏡下手術」
腹腔鏡下手術とは腹腔鏡(食道や呼吸器疾患においては胸腔鏡)と呼ばれるカメラを使った手術のことです。胃カメラや大腸カメラのような柔らかい内視鏡とはまた異なります。『内視鏡外科手術』、『鏡視下手術』とも言われます。
お腹に5mmから1cm程度の小さな穴をあけ、トロカールと呼ばれる手術器具を腹腔内へ挿入するための筒を留置します。腹腔内を炭酸ガスで膨らませて、スペースをつくり、そのトロカールから腹腔内へ手術器具を挿入して手術を行います。簡単に言いますと、お腹を開けない(開腹しない)手術です。
従来の開腹手術に比べ、傷が小さい分、術後の疼痛は軽減されるため、術後早期から歩くことができます(早期離床)。また、腹腔内臓器が外気にさらされる時間が短いため、腸などがいたまず、食事も術後早期から可能となり、入院期間の短縮にもつながります。
腹腔鏡の画像は大きなハイビジョンモニターに映し出され、その拡大視効果により、肉眼での開腹手術の時より、細かい部分までより鮮明に見ることができます。腹腔鏡下手術の方が時間はかかりますが、それはより丁寧な、精度の高い手術が可能になったからであり、出血量も極端に減らすことができます。術前からの高度な貧血症例を除き、通常輸血を行うことはほとんどありません。
当院での腹腔鏡下胃切除術(術中風景)
2台のハイビジョンモニターに映し出された腹腔鏡画像をみながら手術を行います。
おなかに挿入されたトロカール
5㎜から1cm程度のトロカール(手術器具を腹腔内へ挿入するための筒)から腹腔内へ手術器具を挿入し、手術を行います。
内視鏡外科技術認定医による安全で低侵襲な手術
腹腔鏡下手術は高度な技術が要求され、どこの病院でもできる手術というわけではありません。当院では全国有数の手術症例数を誇る基幹病院(大病院)で腹腔鏡下手術のトレーニングを受け、日本内視鏡外科学会の技術認定審査に合格した石川医師が手術を行い、もしくは指導して、手術の質と安全性を担保しています。
この技術認定審査は年に一回行われ、合格率は2~3割と非常に難関となっています。内視鏡外科手術(腹腔鏡下手術)を安全かつ適切に施行する技術を有し、かつ指導するに足る技量を有していることを学会が認定しています。石川医師は自身、手術難易度の高い「胃がん」の手術で技術認定を取得後、前任施設では「大腸がん」、「ヘルニア」と多領域にわたり技術認定医を輩出している実績があります。
当科で行っている腹腔鏡下手術はすべて保険収載されている標準手術のみです。ご安心ください。
消化器外科医長 石川彰
資格:
日本外科学会外科専門医・指導医
日本消化器外科学会専門医・指導医
日本内視鏡外科学会技術認定取得(消化器・一般外科 胃)
日本消化管学会胃腸科専門医・指導医
日本食道学会食道科認定医
日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本化学療法学会抗菌化学療法認定医
インフェクションコントロールドクター
当院で対応可能な腹腔鏡下手術
【食道】
食道がん(胸腔鏡下食道亜全摘術、腹腔鏡補助下胃管再建術)
*がん手術は高難度手術であり、当院でも安全に行える体制を現在整備中です。しばらくお待ちください。尚、食道がんに対する他の治療(化学療法、内視鏡的食道ステント挿入術等)については現在でも対応可能です。お気軽にご相談ください。
食道良性腫瘍(胸腔鏡下もしくは腹腔鏡下腫瘍核出術)
食道裂孔ヘルニア(腹腔鏡下食道裂孔ヘルニア根治術)
食道胃逆流症(腹腔鏡下噴門形成術)
食道アカラシア(腹腔鏡下食道アカラシア根治術) など
【胃・十二指腸】
胃がん、胃GIST、その他胃良性腫瘍、十二指腸癌、その他十二指腸腫瘍
(腹腔鏡下幽門側胃切除術、胃全摘術、噴門側胃切除術、局所切除術、腹腔鏡内視鏡合同手術)
胃・十二指腸潰瘍穿孔(腹腔鏡下穿孔部閉鎖術、大網充填術)
幽門狭窄症(腹腔鏡下胃腸バイパス術)
廃用症候群(腹腔鏡下胃瘻造設術)
【大腸・虫垂・小腸】
大腸がん、大腸憩室炎、大腸穿孔、炎症性腸疾患 など
(腹腔鏡下結腸切除術、直腸前方切除術、直腸切断術、大腸全摘術、人工肛門造設術)
虫垂炎(腹腔鏡下虫垂切除術)
小腸腫瘍、小腸穿孔、腸閉塞 など
(腹腔鏡下小腸部分切除術、腸管癒着剥離術、バイパス術)
廃用症候群(腹腔鏡下腸瘻造設術)
【肝】
肝細胞がん、転移性肝腫瘍、巨大肝のう胞 など
(腹腔鏡下肝部分切除術、肝外側区域切除術、肝のう胞開窓術)
【胆道】
胆嚢炎、胆石症、胆のうポリープ(腹腔鏡下胆のう摘出術)
総胆管結石(腹腔鏡下総胆管切開術)
【膵】
膵体尾部がん、その他の膵腫瘍 など(腹腔鏡下膵体尾部切除術)
【脾】
脾腫、特発性血小板減少性紫斑病;ITP など(腹腔鏡下脾臓摘出術)
【ヘルニア】
鼠径・大腿・閉鎖孔ヘルニア、腹壁ヘルニア など(腹腔鏡下ヘルニア根治術)
【診断的治療】
審査腹腔鏡、腹腔鏡下リンパ節生検 など
さらなる低侵襲を目指した単孔式腹腔鏡下手術
標準的な腹腔鏡下手術は腹部に3~5ヶ所程度の小さな穴(5~10mm程度)をあけて行うため多孔式(マルチポート)腹腔鏡下手術といわれます。開腹手術と比較して、傷も小さくて目立たず、術後の回復も早く、整容性にもすぐれます。当院ではさらなる低侵襲性を追求し、手術難易度は高くなりますが、おへその部分1ヶ所のみの切開(2~3cm程度)で手術を行う、単孔式腹腔鏡下手術(SILS:Single Incision Laparoscopic Surgery)を症例に応じて積極的におこなっています。瓶の小さな口から瓶の中で船の模型を組み立てる、ボトルシップを作るようなイメージです。
以前より胆石症や虫垂炎、腸閉塞等の良性疾患でおこなっておりましたが、現在は胃GISTや十二指腸・小腸腫瘍、大腸がんなどにも適応を拡大しています。
当院での単孔式腹腔鏡下虫垂切除術(術野)
おへその部分1ヶ所のみのきず(2~3cm程度)から手術を行います。
短期入院手術
初回受診時に必要な検査の多くを行うことが可能なため、お忙しい患者さんには、手術までの受診(再診)回数が1〜2回で済むよう配慮しています。土曜日午前中にも外来診療を行っております。
胆石症や鼠径ヘルニア、待機的虫垂切除術などでは、手術前日にご入院いただき、手術2日後に退院となる3泊4日の入院を標準としていますが、お忙しい患者さんでは手術当日の朝にご入院いただき、手術翌日に退院となる最短1泊2日での短期入院手術が可能です。
低侵襲な腹腔鏡下手術により早期の職場復帰が可能となります。しかしながら、腹腔鏡下手術であっても術後の傷の痛みはあり、体力に不安を感じておられる患者さんには、4日前後の入院をお勧めしておりますので、受診時に遠慮なくお伝え下さい。また、吸収糸による真皮埋没縫合を行っているため術後抜糸する必要はありません。
消化器良性疾患に対する手術
消化器良性疾患は多岐にわたります。悪性疾患ではないからと決してあなどることはできません。治療経過は患者さんのQOL(生活の質)に直結します。炎症・感染の程度によっては、悪性腫瘍に対する手術よりも難易度は高くなることもあります。当院では患者さんと相談の上、最適と思われる治療をいたします。内視鏡的治療や低侵襲な腹腔鏡下手術を積極的に行い、患者さんにとって優しい治療を心がけております。
胃食道逆流症・食道裂孔ヘルニア:
胸やけ症状は日本人のおよそ10%で確認されています。
「胃酸の逆流」は、食道と胃のつなぎ目を閉じる下部食道括約筋のしまりが悪くなることによって起こります。腹圧がかかりすぎたり、胃酸の出すぎによっても逆流が起こりやすくなります。衛生環境の改善や除菌治療の普及によって、ピロリ菌に感染していない健康な胃の人が増えたことも胃酸の分泌が増えた原因と考えられています。
胃酸が逆流する仕組み
( 第一三共ヘルスケア くすりと健康の情報局 より引用 )
胃食道逆流症とは胃の中の食べ物や胃酸が食道へ逆流することにより、胸やけや胸のつかえを感じたり、食道の粘膜がただれたりする病気です。下記の3種類に分けられます。
「食道炎(食道粘膜のただれ)がなく自覚症状のみがあるタイプ」
「食道炎があり、なおかつ自覚症状があるタイプ」
「自覚症状はなく、食道炎のみがあるタイプ」
食道炎の有無は内視鏡検査で診断します。
また胃と食道のつなぎ目が上にせり上がる食道裂孔ヘルニアという病気があるとより逆流しやすくなります。食道が横隔膜をつらぬいてくる穴を食道裂孔といいます。食道裂孔ヘルニアはこの裂孔が開大して、胃がせり上がった状態です。
下記の場合には外科的手術のメリットがあります。
◯生活習慣の改善や薬による治療で効果が得られない場合
◯長期の服薬が必要となる場合
◯大きな食道裂孔ヘルニアのある場合
生活習慣の改善や薬による治療で効果が得られない場合、長期の服用が必要となる場合、大きな食道裂孔ヘルニアのある場合は外科的手術のメリットがあります。手術ではせり上がった胃をおなかへもどし、開大した裂孔を縫い縮めます。胃を食道へ巻き付け、噴門形成術と呼ばれる、逆流を防ぐ手術を行います。当院では開腹手術に比べて患者さんの体への負担が少ない腹腔鏡下手術でこれを行います。胸やけ症状でお困りの方は、お気軽に当院消化器外科までご相談ください。
胆石症:
胆のうには肝臓で作られる胆汁を貯めておく働きがあります。その胆汁の成分が固まってできたものが胆石です。胆石ができると食事により胆のうが収縮した際に痛みを感じるようになることがあります。胆のう炎になると、腹痛、発熱が出現し、さらに悪化すると黄疸やショック状態に至ることもあります。胆石性膵炎も時に致命的となることがあります。 小さな結石でも胆のう管や総胆管、十二指腸乳頭部で詰まる可能性があり、総胆管や十二指腸乳頭部で詰まると胆管炎や黄疸の原因になるため、治療対象になります。当院では消化器内科の協力のもと、内視鏡を用いた胆道造影(ERCP)や採石術、胆道ドレナージ術も行うことができます。
当院では腹腔鏡下手術を標準とした胆のう摘出術を行います。腹部に3〜4カ所の小切開を加えて手術を行う多孔式(マルチポート)腹腔鏡手術を行う施設が多いのですが、当院では、炎症が軽い患者さんに対しては、おへその部分1カ所だけに小切開を加えて手術を行う、より低侵襲な単孔式腹腔鏡下胆のう摘出手術も積極的に行っています。
鼠径(そけい)ヘルニア:
そけい部とは足の付け根の部分をさします。そけい部ヘルニアとは本来腹腔内にあるはずの腸管が、腹壁の弱くなった裂け目からそけい部の皮下へ脱出してしまう状態です。『脱腸』とも呼ばれます。乳幼児の場合はほとんど先天的なものですが、成人の場合は腹壁の組織が弱くなることが原因で、特に40代以上の男性に多く起こる傾向にあります。腹圧のかかる製造業や立ち仕事に従事する人に多く見られます。便秘症の人、肥満の人、前立腺肥大の人、咳をよくする人、妊婦さんも要注意です。
放っておくと次第に大きくなり、疼痛を伴って出っぱなし(嵌頓 かんとん)の状態になることがあります。そのような状態になると、腸閉塞となり、脱出した腸の血流も悪くなって、腸管壊死に陥り、緊急手術をしないと命にかかわります。そけいヘルニアは自然には治りません。嵌頓となる前に早期の手術をおすすめします。気になる症状がありましたら、ご相談ください。
当院では全身麻酔下での手術を基本としております。腹壁の弱った組織をメッシュとよばれる人工補強材で補強を行います。そけい部に5~6cm程度の傷ができる従来の前方アプローチ法も行っておりますが、当院では腹腔鏡下手術(TAPP法)を標準としております。おへその部分と5mmの傷のみで手術を行います。手術時間は従来の腹腔鏡を使用しない方法(前方アプローチ法)と比較して30分程度余分にかかりますが、術後疼痛はかなり軽減され、入院期間も短縮し、早期に職場復帰が可能となります。両側であっても、同じ傷から同時に手術が可能です。
そけいヘルニアの種類
そけい部ヘルニアには外そけいヘルニア・内そけいヘルニア・大腿ヘルニアの3つの種類があります。
腹腔鏡下そけいヘルニア根治術(TAPP法)
当院で行っている、腹腔鏡下そけいヘルニア根治術(TAPP法)のイメージ図です。左の図のように腹腔鏡を用いて、術者の2本の鉗子で手術を行います。右の図のようにヘルニアが起こりやすい部分を完全に覆うようにメッシュをあてて、補強します。)
( メディ助 株式会社メディコン ホームページ 患者さん説明用リーフレットより引用 )
痔核:
肛門の3大疾患として痔核、痔瘻(じろう)、裂肛があり、最も頻度が高いのが痔核です。痔核の原因としては、「静脈瘤説(肛門管の痔静脈叢の静脈瘤と考える)」と「肛門クッション滑脱説(肛門管の粘膜下組織が伸びて滑脱するようになったと考える)」が考えられます。痔核は徐々に大きくなり、肛門外に脱出します。排便時に疼痛や出血がみられることがあります。
便通をよくしていきみを避けることが、症状のある痔核の保存的治療の基本です。薬物治療の効果が乏しければ、腰椎麻酔(下半身麻酔)もしくは全身麻酔下に手術(結紮切除術)を行います。
急性腹症:
当院では急性腹症(急性虫垂炎・急性胆道炎・腸閉塞・消化管穿孔・汎発性腹膜炎 など)に対する緊急手術も行っております。
急性虫垂炎に対して保存的治療(抗生物質の投与)を行い、いったんはおさまっても約30%の方が再発するという報告もあります。また、重症な虫垂炎でまわりに膿瘍(膿のたまり)を形成しているものはまわりの大腸・小腸(回盲部)とともに一塊として切除せざるをえない場合があります。状況によりますが、まずは保存的治療を行い、炎症が落ち着いた2~3か月後に虫垂を切除する「待機的虫垂切除術」を選択する場合もあります。低侵襲な腹腔鏡下手術で炎症のない虫垂を切除しますので、術後の回復も早く、短期間の入院治療が可能となります。
敗血症や循環動態が不安定な重症胆道炎(胆のう炎・胆管炎)においては、経皮的胆道ドレナージ(PTCD、PTGBD)を行い、全身状態を安定させた後に、安全に待機的手術を行います。
腸閉塞(イレウス)におきましても同様です。腸管の血流障害、穿孔等がなければ、イレウス管とよばれる腸管内減圧チューブを経鼻的もしくは経肛門的に挿入し、緊急手術のリスクを回避して安全に待機的手術を行っています。
その他の急性腹症におきましても、病状により緊急開腹手術を選択せざるを得ない状況はもちろんありますが、可能な限り患者さんにとって低侵襲な腹腔鏡下手術を行っております。
消化器領域の悪性腫瘍に対する手術
各種診療ガイドラインに準拠して治療をいたします(治療選択肢はいくつかあるものの、基本的には日本全国どこの病院でも同じ治療方針となります)。患者さんの背景、併存疾患、病状によりいくつかの選択肢を提示させていただき、患者さんと相談の上、最適と思われる治療をいたします。適応を見極めながら、内視鏡的切除や低侵襲な腹腔鏡下手術を積極的に行い、根治度を損なわず、患者さんにとって優しい治療を心がけております。
食道がん:
食道がんは男性に多く(男女比 約5.4:1)、年齢は60~70歳台に好発し、全体の年代の約70%を占めます。危険因子は喫煙と飲酒です。(食道癌診療ガイドライン2022年版より引用)。
食道は頚部から胸部、腹部にかけて位置しており、早期から広範囲にリンパ節転移をきたす可能性が高く、画像検査にて全身への転移の有無を検索し、治療方針を決定いたします。進行度(ステージ)によって、内視鏡的切除、外科的切除(開胸手術、胸腔鏡下手術)、化学療法、放射線療法を組み合わせて治療を行います。切除不能例で通過障害をきたしている患者さんには、食道ステント(金属製の筒状のもので腫瘍により狭くなっている部分を拡張・維持させます)の留置を行います。
外科的切除の場合、頚部・胸部・腹部の3領域に手術操作がおよぶため、大きな手術となります。通常は開胸手術や小開胸併用下での胸腔鏡下手術が行われておりますが、当院では人工気胸(胸腔内に炭酸ガスを充満させ、術野を確保します)併用下に小開胸のしない完全胸腔鏡下手術が可能です。開胸しないため、呼吸器(肺)合併症が減り、患者さんにとってより低侵襲な治療が可能となりました。食道切除後の再建臓器としては、胃を細長く管状に形成して(胃管)、食道の代わりとします。腹腔鏡補助下に胃管再建術を行行います。過去に胃の手術をされているなど、胃が使えない場合には小腸や大腸を再建臓器として利用します。
*食道がん手術は高難度手術であり、当院でも安全に行える体制を現在整備中です。しばらくお待ちください。尚、食道がんに対する他の治療(化学療法、内視鏡的食道ステント挿入術等)については現在でも対応可能です。お気軽にご相談ください。
胃がん・大腸がん(結腸がん、直腸がん):
部位別がん罹患数(2019年)で胃がんは男性3位、女性4位、大腸がんは男性2位、女性2位となっており、死亡数(2019年)でも胃がんは男性2位、女性5位、大腸がんは男性3位、女性1位と男女ともに無視できない病気です。(がん情報サービスganjoho.jp より引用)
胃がんも大腸がんも早期のものでは内視鏡的切除が可能ですが、内視鏡的切除の適応から外れた場合、基本的には外科的切除(開腹手術、腹腔鏡下手術)の適応となります。当科では根治性、安全性を最重視しつつ、胃がん、大腸がんにおきましても積極的に低侵襲な腹腔鏡下手術を導入し、標準術式として確立しております。当院では5mmから1cm程度の傷と、お臍の傷だけで行う完全腹腔鏡下手術を標準としており、低侵襲な治療に努めております。
進行度に応じて術前もしくは術後の補助化学療法を行い、根治切除不能例や再発症例に対しては化学療法や放射線治療の併用療法等も診療ガイドラインに準拠して行います。
胃がんでは病変の局在、胃の入口(噴門)に近いか、出口(幽門)に近いか、進行度(ステージ)により、胃の切離範囲が決まります。胃が残る幽門側胃切除術、噴門側胃切除術や胃が残らない胃全摘術があります。GIST(間葉系腫瘍)などではその腫瘍部分だけをくり抜くような局所切除を行います。胃を切離したあとの再建方法(食べ物の通り道を作り直す)にはそのまま食道と胃、胃と十二指腸を吻合する方法や、小腸を利用する方法があります。当院では低侵襲な腹腔鏡下手術を積極的に行っておりますが、腫瘍が大きく、リンパ節転移が高度な場合は開腹手術となります。
結腸がんではその腫瘍の局在とリンパ節郭清の範囲によって、回盲部切除術、右半結腸切除術、横行結腸切除術、左半結腸切除術、下行結腸切除術、S状結腸切除術等を行っています。低侵襲な腹腔鏡下手術を標準術式としております。従来腸閉塞を契機に見つかった場合、全身状態の悪い中、緊急手術(開腹手術)を行い、人工肛門造設が不可避でありました。当院ではイレウス管、大腸ステント等で腸管内減圧をはかり、可能な限り待機的手術(腹腔鏡下手術)を行います。それにより緊急手術のリスクや人工肛門造設を回避でき、術前にがんの進行度も正確に把握することができます。
直腸がんでは根治性を担保しつつ、神経・機能温存、肛門温存に努めております。視野の狭い骨盤内での手術だからこそ、腹腔鏡下手術が有用であると考えています。従来直腸切断術(永久人工肛門)となっていたような下部直腸がんにおきましても、進行度に応じて超低位前方切除術や内肛門括約筋切除を伴う(ISR)直腸切除術を行うことで、永久人工肛門造設を回避することができます。術前に放射線治療と化学療法を併用するような、集学的治療を行う場合があります。
肝臓がん(肝細胞がん、転移性肝腫瘍):
年齢別にみた肝細胞がんの罹患率は、男性では45歳、女性では55歳から増加し始め、80歳~90歳台で非常に多くなります。年齢別にみた死亡率も同様な傾向にあります。罹患率、死亡率は男性の方が高く、女性の約2~3倍です。(がん情報サービスganjoho.jp より引用)
B型・C型肝炎ウイルス感染や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:nonalcoholic steato-hepatitis)、糖尿病、喫煙、飲酒、肥満が肝臓がんの危険因子です。
外科的切除(開腹手術、腹腔鏡手術)、ラジオ波焼灼術、動脈塞栓療法、化学療法の中から、診療ガイドラインに準拠して患者さんの病状にあった最適と思われる方法を選択して治療にあたります。近年では腹腔鏡下手術も導入され、低侵襲な外科的切除も可能になってきました。当院では、開腹手術を標準としておりますが、肝部分切除や外側区域切除においては、症例により低侵襲な腹腔鏡下手術を行います。
大腸がん、胃がん、膵臓がんなどの消化器がんは、血液の流れに乗って、時として肝臓に転移します(進行大腸がんの場合、その20〜30%に肝転移が起こると言われています)。多くの患者さんでは化学療法や外科的切除などが行われます。特に大腸がんの肝転移では、腫瘍の大きさ、個数、場所によって外科的切除が可能な場合には、手術によって良好な生存率が得られることが示されています。一方、肝転移の増大により肝機能障害や黄疸が出現するまで状態が悪化すると、多くの場合、緩和治療を勧められることになります。
胆道がん(胆のうがん、胆管がん):
年齢別にみた胆のう・胆管がんの罹患率は、男女ともに60歳台から増加し始めます。年齢別にみた死亡率も同様な傾向にあります。わが国の2020年の胆のう・胆管がん死亡数は男性約9,400人および女性約8,400人で、それぞれがん死亡全体の約4%および約6%を占めます。(がん情報サービスganjoho.jp より引用)
膵・胆管合流異常(先天性の異常)や原発性硬化性胆管炎(難病指定)は胆管がんの危険因子です。アルコール性肝疾患、糖尿病、肥満、高脂血症も胆のう・胆管がんの危険因子と言われています。また、塗料などの有機溶剤を十分に換気せずに大量に使用し、吸い込んでしまったことによって胆管がんが生じることが明らかになっています。
腫瘍の部位によって手術方法が大きく異なります。マルチスライスCT、内視鏡的胆道造影、経皮経肝胆道造影などによる画像診断をもとに充分な検討を行い、診療ガイドラインに準拠して集学的治療を行います。外科的切除が可能な場合は、胆道切除のみならず、必要に応じて肝切除や膵頭十二指腸切除など腫瘍の占拠部位に応じた手術を行います。
膵臓がん:
年齢別にみた膵臓がんの罹患率は55歳ごろから増加して、高齢になるほど高くなります。年齢調整死亡率は、男性の方が高く、女性の約1.5倍です。危険因子としては、糖尿病、慢性膵炎、肥満、喫煙などがあげられています。(がん情報サービスganjoho.jp より引用) マルチスライスCTなどを用いて適確な進行度診断を行い、外科的治療(膵頭十二指腸切除術PD、膵体尾部切除術DP)を中心に、化学療法、放射線治療、動注化学療法など集学的治療を行います。膵体尾部の腫瘍においては、腹腔鏡下手術も行っております。
業績(2023年4月~)
学会発表(主演者:石川彰)
2023年4月(東京)第123回日本外科学会定期学術集会
ワークショップ 80歳以上の高齢巨大食道裂孔ヘルニアに対する腹腔鏡下手術の工夫
2023年6月(東京)第45回日本癌局所療法研究会
一般演題(口演)胃上部胃癌に対する腹腔鏡下手術の治療成績、噴門側胃切除術の妥当性の検討
2023年6月(大阪)第77回日本食道学会学術集会
一般演題(ポスター)胸腔鏡下食道切除再建術が奏功した難治性良性食道狭窄の3例
2023年7月(函館)第78回日本消化器外科学会総会
要望演題ビデオ 高度な食道裂孔ヘルニアをどう攻略するか ―治療戦略と手術手技の工夫―
2023年11月(神戸)第31回日本消化器関連学会週間(JDDW 2023)
一般演題(デジタルポスター)非乳頭部十二指腸腫瘍に対する内視鏡併用腹腔鏡下局所切除術の手術手技・成績
文責 消化器外科医長 石川彰